病院+東洋医学という選択
│執筆:馬場 乾竹
病院に通っているけれど、鍼灸も受けてみたい。
そんなとき、
「病院に通っているなら、鍼灸は受けない方がいいのだろうか」
「鍼灸を受けるなら、病院とは別に考えなければいけないのだろうか」
と迷う方がいます。
私は、必ずしもどちらか一方だけを選ぶ必要はないと考えています。
病院で必要な検査や診療を受けながら、東洋医学の視点からも身体の状態をみて、鍼灸施術を受ける。
どちらか一方を否定するのではなく、それぞれの役割を活かしながら、その人に必要な道を探していく。
私は、こうした受け方を、
「病院+東洋医学という選択」
と呼んでいます。
病院か、東洋医学か――二者択一にしなくてもよい
身体に何か不調が起きたとき、まず病院を受診することは大切です。
検査が必要なことがあります。
病名を確認する必要があることもあります。
薬や手術など、医療機関でなければできない治療が必要な場合もあります。
特に、急に起こった強い症状や、重い病気の可能性が考えられる場合には、鍼灸よりも先に医療機関での評価が必要です。
私は、そうした病院の役割を否定するつもりはありません。
一方で、
病院へ行っているから、東洋医学を選んではいけない。
ということでもないと思っています。
病院で必要な診療を受けながら、別の身体の見方として東洋医学を取り入れる。
そうした選択もあってよいと考えています。
病院には、病院だからできることがあります
病院では、血液検査、画像検査などを用いて身体の状態を確認できます。
必要に応じて診断を行い、薬物療法や手術などの治療につなげることができます。
病気の経過を医学的に追っていくこともできます。
これは非常に大切な役割です。
鍼灸院が、その代わりをすることはできません。
ですから私は、
病院へ行くべき状態を、鍼灸だけで抱え込まない。
ということを大切にしています。
当院の治療方針でも、必要な医療と鍼灸を対立させずに考えています。
施術中の身体の状態や患者さんのお話から、医療機関で確認してもらった方がよいと考えた場合には、受診をおすすめすることがあります。
すでに病院で治療を受けている方についても、必要な診療や治療を自己判断で中止して鍼灸へ置き換えることを勧めるものではありません。
東洋医学には、東洋医学だからこその身体の見方があります
では、病院へ行っているのであれば、東洋医学は必要ないのでしょうか。
私は、そうは考えていません。
東洋医学には、西洋医学とは異なる身体の見方があります。
当院では、病名だけを見るのではなく、脈、腹部の状態、呼吸、動き、身体の左右差、患者さん自身が感じていることなど、さまざまな反応を手がかりに身体をみていきます。
これは、
病院の診断が間違っていると判断するためではありません。
また、
病院では分からなかった本当の原因を、鍼灸なら見つけられる
という意味でもありません。
同じ身体を、異なる視点からみる。
そのことで、身体への向き合い方や、鍼灸でできることを考える材料が増える場合があります。
私は、そこに東洋医学の役割の一つがあると考えています。
セカンドオピニオンとは違います
この言葉を考え始めたきっかけの一つに、「セカンドオピニオン」がありました。
セカンドオピニオンは、一般に、現在の診断や治療方針について別の医師から意見を聞くものです。
しかし、
「病院+東洋医学という選択」は、もう一つの診断を受けるという話ではありません。
医師の診断を鍼灸師が再評価するものでもありません。
病院で必要な診療を受けながら、
東洋医学という別の身体観も加えて、自分の身体と向き合ってみる。
という選択です。
ですから、「第二の意見」というより、
「もう一つの見方を加える」
という方が、私の意図には近いと思っています。
病院の治療をやめるための考え方ではありません
ここは、とても大切です。
「病院+東洋医学」と言うと、
「病院の治療をやめて鍼灸へ移るということですか」
と思われるかもしれません。
そうではありません。
必要な病院治療は続ける。
必要な検査を受ける。
薬を使用している場合には、自己判断で中止しない。
そのうえで、必要であれば鍼灸も利用する。
そうした形があります。
もちろん、すべての人に鍼灸との併用が必要だという意味でもありません。
病院での治療だけで十分な場合もあります。
反対に、まず医療機関での評価を優先した方がよい状態もあります。
何でも両方受ければよい、という話でもありません。
大切なのは、その人の状態に応じて必要なものを選ぶことです。
私自身、病院での治療に支えられた経験があります
私がこの考え方を大切にしている理由には、鍼灸師としての経験だけでなく、患者としての経験もあります。
私自身、指定難病で入院し、病院で検査・診断・治療を受けた経験があります。
そのとき、病院だからこそ受けられる検査や治療に支えられました。
ですから私は、東洋医学に携わっているからといって、西洋医学を否定する考えはありません。
その一方で、長年、鍼灸師として身体をみてきた経験から、
東洋医学には東洋医学にしかない身体の見方がある。
とも考えています。
この二つは、私の中では矛盾しません。
むしろ、自分自身が患者になったことで、
病院か東洋医学かではなく、その人に必要なものを使えばよい。
という思いは以前より強くなりました。
実際には、いろいろな組み合わせがあります
たとえば、まず病院で症状の原因や危険な状態がないか確認し、その後に鍼灸を受ける場合があります。
病院で定期的な診察や投薬を続けながら、並行して鍼灸を受ける場合もあります。
状態によっては、鍼灸を受けながら経過をみていても、途中で病院での確認をおすすめすることがあります。
逆に、医療機関で必要な評価や治療を受けたうえで、日々の身体の状態について鍼灸で相談する方もいます。
どれか一つの形が、すべての人に正しいわけではありません。
その人の身体、症状、状況、希望によって、必要な組み合わせは変わります。
「東洋医学的統合医療」との関係
当院では、この「病院+東洋医学という選択」の背景にある臨床姿勢について、
「東洋医学的統合医療」
という言葉でも考えています。
ただし、これは公的な制度や一般的な「統合医療」の定義をそのまま示したものではありません。
当院独自の臨床上の考え方を表すための言葉です。
その中心にあるのは、
東洋医学を西洋医学の単なる補助に限定しない。
しかし、西洋医学も否定しない。
という立場です。
東洋医学に軸足を置いて身体をみながら、必要な病院での検査・診断・治療は尊重する。
私は、その両方を患者さんのために活かしたいと考えています。
そして、この考えを一般の方にも分かりやすい言葉へ置き換えたものが、
「病院+東洋医学という選択」
です。
まず病院へ行った方がよい場合もあります
この記事を読んで、
「では、どんな症状でもまず鍼灸院へ相談すればよいのか」
と思われるかもしれません。
そうではありません。
急激に起きた強い症状、意識や運動機能の異常、激しい胸痛や呼吸困難など、緊急性が疑われる状態では、鍼灸院ではなく医療機関での評価を優先する必要があります。
また、症状の原因が分からず、医学的な確認が必要だと考えられる場合にも、病院での検査や診察をおすすめすることがあります。
東洋医学を大切にすることと、必要な西洋医学を大切にすることは両立します。
私は、そう考えています。
患者さん自身が、選択肢を持てること
最終的に大切なのは、
「西洋医学と東洋医学のどちらが上なのか」
を決めることではありません。
患者さんが、
「病院しか選べない」
あるいは、
「東洋医学を選んだら病院へ行ってはいけない」
と思わなくてもよいことです。
病院で必要な診療を受ける。
必要であれば、東洋医学の視点からも身体をみてもらう。
そして、自分の状態に合わせて、それぞれを活かしていく。
選択肢は、一つでなくてもよい。
このことを、もっと一般の方にも知ってもらいたいと思っています。
病院+東洋医学という選択
この言葉を、当院だけのサービス名にしたいわけではありません。
私は、
「病院に行きながら、東洋医学も利用するという選択肢がある」
ということ自体が、もっと普通になればよいと思っています。
病院か、東洋医学か。
どちらか一方を否定するのではなく、それぞれができることを活かす。
そして、その人自身が必要なものを選べる。
そのような身体との向き合い方を、
「病院+東洋医学という選択」
という言葉で伝えていきたいと思っています。




