施術動画を見るときに、少しだけ考えてほしいこと――「その場の変化」と「その後」は同じでしょうか
│執筆:馬場 乾竹
YouTubeやSNSを見ていると、整体や鍼灸などの施術によって、その場で身体が大きく変化する動画を目にすることがあります。
動かなかった身体が動くようになる。
痛みが軽くなったと話す。
姿勢や動きが、施術の前後で大きく変わる。
こうした動画は、とても分かりやすいものです。
実際の施術の様子を見ることで、「どんな先生なのか」「どんな施術をするのか」を知る手がかりにもなります。
私自身、施術後に身体がどう変化したのかを確認することは、とても大切だと考えています。
ただ、施術動画を見るときに、一つだけ分けて考えておきたいことがあります。
「その場で起きた変化」と「その治療のその後」は、同じものではない。
ということです。
この記事は、特定の治療家や動画を批判するためのものではありません。
また、強い刺激を否定したり、弱い刺激の方が優れていると主張したりするものでもありません。
患者さんが治療院を選ぶときに、施術動画をどのように見ればよいのか。
そのことを、少し考えてみたいと思います。
動画で確認できるのは、どこまででしょうか
施術動画から分かることは、たくさんあります。
どのような刺激を行っているのか。
患者さんへどのように声をかけているのか。
施術の前後で、身体がどう変化したのか。
患者さんがその場で何を感じたのか。
これらは、実際に映像として確認できます。
一方で、動画に映っていなければ分からないこともあります。
翌日はどうだったのか。
一週間後はどうだったのか。
その変化は続いたのか。
元の症状はどうなったのか。
なぜ、その患者さんにその刺激を選んだのか。
動画の前後に、どのような診察や説明があったのか。
もちろん、動画に映っていないから問題がある、という意味ではありません。
単純に、
映像から確認できることと、映像だけでは確認できないことがある。
ということです。
「直後に良くなった人ほど、その後も良い」とは限らない
この点について参考になる研究があります。
2020年に発表された筋骨格系の問題を対象とした系統的レビューでは、治療中や初回治療後にみられた痛みの変化が、中長期の痛み・機能障害・復職などの結果をどの程度予測するのかが検討されています。
13研究が採用されましたが、早期の痛みの変化が中長期の良好な予後を十分に予測する、という明確な根拠は確認されませんでした[1]。
ただし、ここは誤解しないでください。
「その場で変化することには意味がない」という研究ではありません。
私自身の臨床でも、一つの施術をしたあとに身体がどう応答したのかは非常に重要な情報です。
身体がどう変わったかを見ることで、次の判断を変えることができます。
ただし、
身体がその場で反応したことと、治療全体として良い結果になったことは分けて考える必要があります。
主訴がどう変わったのか。
日常生活で困っていたことがどうなったのか。
そして、その変化がその後どう経過したのか。
そこまで見て、初めて分かることがあります。
では、強い刺激は良くないのでしょうか
そういう話でもありません。
2019年には、変形性膝関節症の患者301人を対象に、強い電気鍼、弱い電気鍼、偽鍼を比較したランダム化比較試験が報告されています。
この研究では、特定の治療条件において、強い電気鍼群が弱い電気鍼群より良好な結果を示した項目がありました[2]。
また、2022年の鍼刺激量に関する系統的レビューでも、鍼の刺激量を考える要素として、鍼の本数、刺激強度、治療回数・頻度などが検討され、刺激強度が反応に影響する可能性が示されています[3]。
もちろん、これらは特定の疾患や研究条件で行われたものです。
「強い刺激の方が良い」と一般化することはできません。
しかし同時に、
強い刺激だから悪い、とも言えません。
私が大切だと思うのは、
必要な患者さんに、必要な刺激を選ぶことです。
強いか弱いかだけで、治療の良し悪しを決めることはできません。
だからこそ動画を見るときにも、
「刺激が強いからすごい」
「弱いから優しい」
という見方だけではなく、
なぜ、この人に、この刺激が必要だったのだろうか。
という視点があってもよいのではないかと思います。
その後まで入れた動画があってもよいのではないでしょうか
これは、発信する側への私からの一つの提案です。
劇的な変化がその場で起きたのであれば、その映像には価値があります。
ただ、可能であれば、
施術前。
施術直後。
翌日。
一週間後。
というように、その後の経過まで紹介されていると、見る側はさらに判断しやすくなると思います。
もちろん、すべての患者さんを追跡して動画にする必要はありません。
患者さんの負担もありますし、プライバシーの問題もあります。
それでも、
「その場で変わった」だけで終わる動画と、「その後どうなったか」まで分かる動画では、伝わる情報の種類が違います。
特に強い刺激や大きな変化を見せる場合には、
「なぜこの刺激を選んだのか」
「その後どうだったのか」
まで分かれば、視聴する患者さんにとって、さらに有用な情報になるのではないでしょうか。
「たくさん再生されている」ことと「情報の質」は別です
YouTubeなどでは、どうしても再生数や「いいね」の数が目に入ります。
しかし、再生数が多いことと、医療・健康情報としての質が高いことは同じではありません。
2022年に発表されたYouTube上の健康情報に関する系統的レビューでは、202の研究、合計22,300本の動画が検討されました。
その結果、YouTube上の健康情報の質は全体として平均から平均以下と評価され、動画の人気と情報の質については、多くの研究で負の相関または相関がないという結果でした[4]。
さらに2024年には、慢性疼痛に対する鍼治療を扱った英語のYouTube動画54本を評価した研究が報告されています。
その研究では、
- 57.4%が「有用」
- 14.8%が「誤解を招く」
- 27.8%が「どちらでもない」
と分類されました[5]。
そして、有用とされた動画と誤解を招く動画を比較しても、平均再生数、1日あたりの視聴数、いいね数、コメント数などには有意な差が確認されませんでした。
ただし、この研究は英語の54本という限定された動画を対象としたものです。
日本の施術動画全体へ、そのまま当てはめることはできません。
それでも、
再生数そのものを「治療の質の証明」と考えることはできない。
ということを考える材料にはなると思います。
「本当の一場面」と「全体」は同じではありません
ここで大切なのは、
「動画は信用できない」
と考えることではありません。
動画に映っている変化が、本当に起きた変化であることも当然あります。
しかし、
本当に起きた一場面であることと、その治療全体が分かることは別です。
これは施術動画に限った話ではありません。
どれだけ事実に基づいた映像であっても、映像には必ず「映っている範囲」があります。
逆に言えば、動画を見る側が、
「ここから分かることは何か」
「ここからは分からないことは何か」
を分けられれば、施術動画は治療院を知るための有用な情報になります。
もう一つ考えたいのが、患者さんの「見せ方」です
施術動画について考えている中で、私はもう一つ気になることがあります。
それは、
動画に映る患者さんを、どのように見せるのか。
という問題です。
治療では、身体を診るために肌を出してもらう必要がある場合があります。
背中を診る。
腹部を診る。
脚を診る。
施術そのものに必要な露出はあります。
しかし私は、
「施術上必要な露出」と「不特定多数へ公開するうえで必要な露出」は、必ずしも同じではない。
と考えています。
動画に映っている方も、最後まで患者さんです
動画になると、私たちはつい「映像の中の人」として見てしまうことがあります。
しかし、その方は施術を受けに来られた患者さんです。
撮影に同意されていたとしても、
「どこまで映すのか」
「どのような角度から映すのか」
「公開後、その映像がどこまで広がる可能性があるのか」
ということまで考える余地があります。
海外の医療者向け倫理指針では、患者さんを撮影・公開する際の同意だけでなく、プライバシーや尊厳、情報の利用範囲についても重要な問題として扱われています[6][7]。
これらは日本の鍼灸師へ直接適用される規則ではありません。
ただ、
患者さんの身体を公開するという行為を考えるための参考にはなる。
と私は思います。
患者さんの身体を、どう見せるのか
例えば、
タオルを一枚加える。
必要な部分だけが映る画角にする。
顔や個人を特定できる情報を映さない。
必要以上に広い範囲を映さない。
こうした方法でも、施術内容を伝えられる場合があります。
これは、
「身体を映してはいけない」
という話ではありません。
また、十分な同意のもとで公開されている動画を、一律に不適切だと判断するつもりもありません。
ただ、
施術として必要だった見せ方を、そのまま不特定多数への公開にも使う必要があるのか。
一度考える余地はあると思います。
治療を発信する側に提案したい三つのこと
私自身も情報を発信する側です。
ですから、これは誰かを外から批判するための話ではなく、私自身にも向けておきたい問いです。
施術動画を公開するのであれば、私は次の三つを考えたいと思っています。
1.その場の変化だけでなく、その後も可能な範囲で伝える
直後の変化と、その後の経過を分けて伝える。
2.強い刺激を見せるなら、なぜその刺激を選んだのかも伝える
強さそのものを価値にするのではなく、患者さんに合わせた選択であることが分かるようにする。
3.患者さんの尊厳を、公開時にももう一度考える
撮影への同意だけで終わらず、画角、露出、個人の特定可能性、公開後の広がりまで考える。
私は、この三つがあるだけでも、施術動画の伝わり方は大きく変わるのではないかと思います。
見る側にも、一つだけ覚えておいてほしい
患者さんが施術動画を見るときには、
「何が映っているか」と同時に、「何が映っていないか」も少しだけ考えてみてください。
その場では変わった。
では、その後はどうだったのか。
強い刺激だった。
では、なぜその刺激が必要だったのか。
たくさん再生されている。
では、再生数とは別に、どのような情報が示されているのか。
患者さんが映っている。
では、その患者さんの尊厳はどのように守られているのか。
動画を疑って見る必要はありません。
ただ、
一場面だけから、見えていないところまで決めてしまわない。
それだけでも、治療院を選ぶときの見方は少し変わると思います。
「再生される動画」から「信頼される動画」へ
施術動画には、大きな力があります。
文章だけでは伝わらない施術者の雰囲気や、患者さんへの接し方、施術の様子を伝えることができます。
だからこそ私は、
「どれだけ大きな変化を見せられるか」
だけではなく、
「この先生なら、自分の身体を任せてもよさそうだと思えるか」
というところまで伝わる動画が増えてほしいと思っています。
治療とは、本来、一場面だけで完結するものではありません。
その場の身体の応答も大切です。
その後の経過も大切です。
患者さんがどう感じているかも大切です。
そして、治療を受けているその人を、最後まで一人の患者さんとして大切に扱うことも、私は同じように重要だと思っています。
動画を見る側にも。
動画を作る側にも。
私自身にも。
施術動画が当たり前に見られる時代だからこそ、
「何が見えていて、何がまだ見えていないのか」
を考える視点を残しておきたいと思います。
参考文献・参考資料
[1]Runge N, Aina A, May S. Are within and/or between session improvements in pain and function prognostic of medium and long-term improvements in musculoskeletal problems? A systematic review. Musculoskeletal Science and Practice. 2020;45:102102. PMID: 32056828.
[2]Lv ZT, et al. Effects of intensity of electroacupuncture on chronic pain in patients with knee osteoarthritis: a randomized controlled trial. Arthritis Research & Therapy. 2019;21:120. PMID: 31088511.
[3]Yoon DE, Lee IS, Chae Y. Identifying Dose Components of Manual Acupuncture to Determine the Dose-Response Relationship of Acupuncture Treatment: A Systematic Review. American Journal of Chinese Medicine. 2022;50(3):653-671. PMID: 35300569.
[4]Osman W, et al. Is YouTube a reliable source of health-related information? A systematic review. BMC Medical Education. 2022;22:382. PMID: 35590410.
[5]Greer M, et al. Misinformation Persists in Complementary Health: Evaluating the Reliability and Quality of YouTube-Based Information on the Use of Acupuncture for Chronic Pain. Journal of Pain Research. 2024;17:1509-1518. PMID: 38646592.
[6]General Medical Council. Making and using visual and audio recordings of patients.
[7]American College of Surgeons. Guidelines for the Ethical Use of Social Media by Surgeons.




