不安や焦りが強いとき、AIに相談してもいいのでしょうか
│執筆:馬場 乾竹
不安なことがあると、頭の中で同じことを何度も考えてしまうことがあります。
インターネットで調べても情報が多すぎて、かえって何を信じればよいのか分からなくなる。
誰かに相談した方がよいのかもしれないけれど、うまく説明できる自信もない。
そんなとき、ChatGPTなどの生成AIに質問したり、自分の気持ちを文章にして入力したりすることもあると思います。
では、不安や焦りが強いときに、AIへ相談してもよいのでしょうか。
私は、AIに相談すること自体を、一律に良い、悪いと考える必要はないと思っています。
ただし、ここには大切な区別があります。
AIを使うことと、AIに判断を任せることは違います。
AIに話すことで、
「実際に起きていること」
「自分が心配していること」
「まだ分からないこと」
を整理できる場合があります。
一方で、AIは間違えることがあります。
医師や心理職などの専門家に代わって、診断、治療、受診の必要性、生命や身体の安全に関わる判断を担うものでもありません。
この記事は、「不安なときにはAIへ相談しましょう」と勧めるための記事ではありません。
すでにAIを利用している方、あるいは利用しようとしている方が、AIにできることと、AIに任せない方がよいことを分けるための考え方について書いたものです。
なお、私は、はり師・きゅう師としてこの記事を書いています。精神科医や公認心理師などの立場から、精神疾患の診断や治療について説明するものではありません。
不安なときにAIへ相談すること自体が問題なのではありません
AIには、使い方によって役立てられる部分があります。
たとえば、
「いろいろなことが頭に浮かんで、何から考えればよいのか分からない」
というときに、話を順番に整理する。
「実際に起きたことと、自分が心配していることが混ざっている気がする」
というときに、それぞれを書き分けてみる。
医師や専門職へ相談するときに、
「何を伝えたいのか」
「何を確認したいのか」
を整理する。
AIを使うのであれば、このように自分自身が考えたり、人に相談したりするための整理を補助してもらうという使い方があります。
ここでAIに任せているのは、最終的な判断ではありません。
私は、AIにはAIにできることがあると考えています。
しかし、それはAIに答えそのものを預けることとは違います。
「AIを使うこと」と「AIに判断を任せること」は違います
たとえば、体調について心配になり、
「この症状なら病院へ行かなくても大丈夫ですよね」
とAIに聞いたとします。
あるいは、
「私はこの病気ではありませんよね」
「この選択をしておけば間違いありませんよね」
と尋ねることもあるかもしれません。
ここには注意が必要です。
生成AIは、とても自然な文章を作ることができます。
そのため、回答が読みやすく、筋が通っているほど、「正しい答えなのだ」と感じてしまうことがあります。
しかし、文章が自然であることと、内容が正しいことは同じではありません。
WHO(世界保健機関)も、医療・健康分野で生成AIを利用する際には、誤った情報、不正確な情報、偏った情報、不完全な情報が生成される可能性があることを指摘しています。
また、人がAIを過度に信用し、本来慎重に検討すべき判断までAIへ委ねてしまう「automation bias(自動化バイアス)」もリスクとして挙げています。
だからこそ私は、
「AIが大丈夫と言ったから大丈夫」
とは考えない方がよいと思っています。
AIを情報や考えの整理に使うことと、診断、治療、受診など重要な判断をAIに任せることは分けて考える必要があります。
ChatGPTに何度も「大丈夫?」と聞いてしまうとき
もう一つ、考えておきたいことがあります。
安心するために、同じような質問をAIへ何度も繰り返していないかということです。
たとえば、
不安になってAIに聞く。
回答を読んで少し安心する。
しかし、しばらくすると、
「本当に大丈夫なのかな」
と、また不安になる。
今度は少し質問の仕方を変えて、もう一度AIに確認する。
そして、また安心して、また不安になって確認する。
このようなことが続く場合です。
ここについては、研究で分かっていることと、AIについて私が考えていることを分けておく必要があります。
人に対して安心できる答えを繰り返し求める「reassurance seeking(安心確認)」については、不安症や強迫症などとの関連が研究されています。
不安症や強迫症の治療を求めた738人を対象とした研究では、過剰な安心確認と不安などとの関連が示され、認知行動療法の過程で安心確認が減ることと臨床的な改善との関連も報告されています。
PubMed掲載論文
ただし、この研究はChatGPTなどの生成AIへの反復質問を研究したものではありません。
したがって、
「ChatGPTに何度も質問すると不安が悪化することが証明されている」
という意味ではありません。
私は、この知見をそのままAIへ当てはめるのではなく、
「私は今、考えを整理するためにAIを使っているのか。それとも、安心できる答えが出るまで確認を繰り返しているのか」
と、自分の使い方を振り返るための一つの視点として捉えています。
AIを使うほど不安になると感じたら
AIをうまく使おうとすると、
「もっと詳しく質問すればよい」
「もっと正確な答えを出してもらえばよい」
「別の聞き方でもう一度確認すればよい」
と考えることがあります。
しかし私は、AIからいったん離れることも、AIとの付き合い方の一つだと考えています。
たとえば、
- 同じ内容について言い方を変えながら何度も質問している
- AIの回答を読むたびに、新しい心配が出てくる
- 「もう一度だけ確認しよう」と思うことを繰り返している
- AIの回答がないと、自分では決められないように感じる
- AIとのやり取りに多くの時間を使い、普段の生活に影響している
こうしたことに自分で気づいた場合には、
「さらにAIへ質問する」
以外の選択肢も考えてよいと思います。
もちろん、これは医学的な診断基準ではありません。
自分のAIの使い方を見直すための目安として、私はこう考えています。
一度画面を閉じる。
少し時間を置く。
身近な人に話す。
必要であれば、医療機関や適切な専門職に相談する。
「AIに何を聞けばよいか」だけでなく、
「今はAIから離れた方がよいのではないか」
と考えることも、AIとの付き合い方の一つだと思います。
AIと人への相談は、どちらか一つではありません
AIか、人か。
私は、この二択にする必要もないと思っています。
AIを使って自分の考えを整理し、その内容を家族や友人に話すこともできます。
医師に伝えたい症状や経過、質問したいことを整理してから受診するという使い方もできます。
反対に、最初から人に相談しても構いません。
AIを使わなくても構いません。
大切なのは、
AIとの会話だけですべてを完結させなければならない、と考えないことです。
特に、診断や治療など医療的な判断が必要なことまで、AIとの会話だけで完結させないことが重要です。
ChatGPTを提供するOpenAI自身も、自傷・自殺など生命の安全に関わる状況や、精神的な苦痛、AIへの過度な依存などを安全上重要な領域として扱い、現実の人や専門的な支援につなげるための安全対策を続けています。
ただし、安全対策があることは、
「AIに任せておけば安全」という意味ではありません。
AIの性能が高くなることと、重要な判断をAIに任せてよいことは別の話です。
では、不安なときにAIを使うなら何を任せればよいのでしょうか
私が一つの基準として考えているのは、
答えを決めてもらうのではなく、自分で考えたり、人に相談したりするための整理を手伝ってもらう
という使い方です。
たとえば、
「大丈夫かどうか判断してください」
ではなく、
「今分かっていることと、まだ分からないことを分けてください」
と頼む。
「心配しなくて大丈夫ですよね」
ではなく、
「実際に起きていることと、私が心配して想像していることを分けて整理してください」
と頼む。
このように、AIの役割を最初から「整理するところまで」にしておくという考え方です。
実際にAIを使う場合の注意点、安心確認を繰り返していると感じた場合の考え方、AIからいったん離れる考え方、そして考えを整理するための3種類の参考プロンプトについては、固定ページの
「不安や焦りで考えがまとまらないときのAIの使い方」
にまとめています。
そこで紹介するプロンプトも、「AIに正解を出してもらうためのもの」ではありません。
AIに任せる範囲を広げすぎず、自分自身で考えることや、現実の人への相談につなげるための補助として使うものです。
個人情報や健康情報を入力するときにも注意が必要です
AIに相談するときには、回答内容だけではなく、何をAIへ入力するのかにも注意が必要です。
個人情報保護委員会は、一般の利用者に対して、生成AIに入力した個人情報が機械学習に利用される場合があることや、正確または不正確な内容として出力されるリスクがあることを踏まえて、個人情報を入力する際には適切に判断するよう注意を促しています。
これは、
「AIへ入力した情報は必ず学習に使われる」
という意味ではありません。
情報の取り扱いは、利用するサービス、契約内容、設定などによって異なります。
だからこそ、
- 氏名、住所、電話番号、勤務先など自分を特定できる情報
- 家族や知人など第三者を特定できる情報
- 詳しい健康情報
こうした情報を入力するときには、
「この情報まで入力する必要があるのか」
と一度考えることが大切です。
利用しているサービスの利用規約、プライバシーについての説明、設定などを確認することも必要です。
AIだけで対応しない方がよいときがあります
ここまで、AIを利用する場合の付き合い方について書いてきました。
しかし、AIの使い方を工夫することよりも、現実の支援につながることを優先した方がよい場合があります。
精神的なつらさが強い。
眠れない、食べられないなど生活への影響が大きい。
仕事や学校、家庭生活を続けることが難しくなっている。
自分だけではどうすればよいか分からない。
そのような場合には、AIとの会話だけで抱え込まず、医療機関、適切な専門職、公的な相談窓口など、現実の支援につながることを考えてください。
厚生労働省は、
「まもろうよ こころ」などの相談先
を案内しています。
そして、
「死にたい」
「消えたい」
「自分を傷つけたい」
といった生命や身体の安全に関わる状態では、AIを主な対応手段にしないでください。
家族や信頼できる人、医療機関、専門の相談窓口など、現実の人や支援機関につながることを優先してください。
差し迫った危険があり、救急車など緊急の救急対応が必要な場合には119番を利用してください。事件・事故など警察による緊急の対応が必要な場合には110番があります。
消防庁:119番について
ここで大切なのは、AIが良い、悪いという話ではありません。
AIが担当するところではないことを、AIだけに任せないということです。
AIにできることと、AIに任せない方がよいことを分ける
「不安や焦りが強いとき、AIに相談してもいいのでしょうか」
この問いに対して、私は、
「AIには相談しない方がよい」
とも、
「どんどんAIに相談すればよい」
とも考えていません。
AIに話すことで、自分の考えが言葉になることがあります。
実際に起きていることと、自分が心配していることを整理できる場合もあります。
人に相談するときに、伝えたいことをまとめる補助として使える場合もあります。
一方で、AIは間違えることがあります。
診断や治療、受診、生命や身体の安全に関わる重要な判断を任せるものではありません。
安心できる答えを求めて、同じような確認を繰り返していることに気づく場合もあるかもしれません。
そのときには、さらにAIへ質問することだけではなく、AIからいったん離れることも選択肢になります。
そして必要なときには、人、医療機関、適切な専門職、公的な相談窓口など、現実の支援につながることが大切です。
ですから私は、
AIを使うか、使わないか
という二択よりも、
「AIにできることと、AIに任せない方がよいことを分ける」
ことを大切にしたいと考えています。
AIを使うことと、人に相談することも二者択一ではありません。
AIで整理してから人に相談してもよい。
最初から人に相談してもよい。
そして、AIを使わないという選択をしてもよい。
AIそのものに答えを預けるのではなく、自分自身で考えることや、現実の人や支援とのつながりを失わない形でAIを使う。
不安や焦りがあるときほど、その区別を大切にしたいと私は考えています。
参考にした主な情報
- 世界保健機関(WHO)「Ethics and governance of artificial intelligence for health: Guidance on large multi-modal models」
- 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」等の相談先情報
- Kobori O, et al. “Reassurance seeking in the anxiety disorders and OCD: Construct validation, clinical correlates and CBT treatment response.” Journal of Anxiety Disorders. 2019.
- OpenAI:センシティブな会話に関する安全対応について




